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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
と云いながら窓へ走りよった。
「かみなりさまが落ちたんですってよ、尾張町の山幸っていう呉服屋ですって、あらあら、ほんとだわ、あんなに煙がいっぱい」
そのときまた雷鳴がおそいかかった。おいそは両手で耳をふさぎ、身をちぢめながら、そうぞうしく独りで叫びたてた。
そこへ遠藤千之助が入って来た。
「あの人たちはおくれますよ」
彼は入って来るなり、こう云った。
「谷町に捉まりましてね、逃げられなくなってしまったんです、それで私がひと足さきに、そのお知らせを兼ねて来たんですがね」
「それはどうも」
「ほかにちょっとお話もあるもんですから、招かれない席へ失礼だとは思ったんですが、御迷惑じゃありませんか」
「そんなことはない、どうぞ」
半之助はおいそに振返って、酒の支度をするように命じた。おいそはうわのそらで、まっ赤な火が見えだしたとか、隣りへ燃え移りそうだとか、みれんらしく云いながら、下へおりていった。
「あの人たちはそれぞれ面白いですね」
千之助は坐るとすぐに、扇をつかいながらこう続けた。寺のときと同じで、人をばかにした、からかうような調子である。
「村田という人は老いたる篤農家といったふうだし、青山氏はゆうゆうと捻ったようなことを云うし、松室という人は、あの人はまあ、あれだけの人らしいけれども、正木さんはまたひどく無邪気で」