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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

千之助はじっとこちらを見た。細ながい、痩せた、神経のむきだしになっているような顔が、ふとべそをかくように歪んだ。

「――貴方にはわからない」

彼は呟くように云った。

「――私のような親を持った人間が、どんな気持で生きているか、どんなに辛い、恥ずかしい気持で、毎日、毎日をくらしているか」

「――――」

「貴方は、帰れ、と云うことができる、そして、私が帰れば、それでさっぱりする、まもなくお友達が来るでしょう、お互いが肚の底まで知りあい、信頼しあっている、お友達が」

「――――」

「誰に気兼ねも、遠慮もなく、楽しく酔い、思うままに語りあうことができる、そのときはもう、私のことなど、貴方の頭には影も形もない、もし思いだすとすればですね、私には眼に見えますよ、貴方はふんと鼻をならして、ああ、あのいたずら女の」

「もういちど云うがね」半之助はがまんが切れたように、かなり荒い声でさえぎった。

「そんなわけのわからない、不愉快なことを云うのはやめて呉れないか、私には少しも興味がないし、うっとうしくなるばかりだ」

「ほう、うっとうしいですか」

千之助は刀を取って、左の手に持ちなおした。