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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

だが半之助にはそうでないことがわかる。主馬は自分の感じたこと、考えたことを、できるだけありのままに、云い表わそうとするのである。そして、ずいぶん持ってまわった表現をするが、よく聞いていると、まじめで、味わいのふかい意見が、少なくなかった。

父の三回忌の日から、つい四五日して、ちょうど非番の日であったが、十時ころに青山主馬が訪ねて来た。母親は酒の支度を命じてから、谷町へこのあいだの礼にでかけたので、主馬も袴をぬぎ、のんびりとくつろいで話した。

「この家ではちかごろ、すぐに酒を出すようだが、お父さんの代からの習慣かね」

「いやこのごろだよ、父は酒は嫌いではなかったけれど、特別な客でもない限り、酒を出すようなことはなかった」

「すると、安倍の好みか」

「それもあるが、そればかりでもないんだ」

半之助は苦笑した。

「はじめはね、母がおれを一家の主人にしたいという、あまやかした気持があったらしい、こんなふうに構えて、もっともらしく盃など持っていると、ちょっとたのもしくみえるらしいんだな、こっちも酒でも飲むほかに、気のまぎらしようがない状態だから、つい、便乗していたんだが、少しまえから、それとはべつの意味をもちはじめたんだ」