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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

もちろん漁師たちの家だろうが、どの家の前にも、一坪ばかり土盛りをした、囲いに、松葉牡丹や、鳳仙花や、名の知れない草花が、活き活きと咲いていた。

横丁へはいろうとしたとき、半之助は、うしろで妙な叫び声を聞いた。

「――ほっ、ほう……」

誰かを呼ぶらしい、清らかでつやのある、よく徹る、若い女の声であった。

「――ほっ、ほう……」

かっこうというふうにも、聞えた。

ふり返ってみたが、河岸のひなたで、子供たちが遊んでいるほかには、それらしい女の姿など、見あたらなかった。ただ、その岸に小さな舟入り堀があり、いま入ったらしく、帆をおろしている小舟が見えた。たぶんその舟の中で、漁師の娘か女房かが、叫んだのだろう、なかま同志の呼び声かもしれない。半之助はそう思って、主馬のあとを追った。

そこはどうやら裏口のようであった。

細い横丁を十間ばかりゆくと、黒い板塀の上に、のしかかるほど、びっしり繁った樹立があり、塀の一部に、小さな掛け行燈を出した、しゃれた木戸が切ってあった。

「ここだよ」

主馬はその木戸を、馴れた身ごなしで入った。半之助は、行燈に「丸茂」と書いてあるのを見た。