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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

こう云いながら、まだもがいている鳥を、庭下駄で蹴った。

「来てみろ、こいつは臭くて、持ってはゆけないぞ」

誰かそれに答えたが、半之助にはわからなかった。

「しかし、さすがに菱屋庄兵衛だな、喉首のまん中だ」

また答える声がした。こちらの男(五尺そこそこの、だが筋肉の発達した躯に、口の大きな、眉の太くて短い、眼のするどい顔つきであったが)は、ぶ遠慮に笑って、

「ばかを云え、次高のみじん流は見世物じゃない」

こう云って、もういちど、鳥を蹴ってから、来たほうへとたち去った。

主馬が戻って来るまで、半之助は、胸のどこかが痛むような、ふしぎな感情にとらわれていた。

弓で射られたのは、樹上の鷺である。それはまだ地面の上に、射抜かれたまま横たわっているのが、ついそこに見える。

けれども、半之助には、それがあの呼び声のぬしのように、思えてならない。若い、清らかな、女の声であったが、それが矢に射抜かれたとたんに、白鷺に化した。そんなふうに、思えるのであった。

――誰だかしれないが、可哀そうなことをするものだ。

まもなく主馬が戻って来た。

「悪いいたずらをするやつだ」

彼も見ていたのだろう。