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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

と答えて去った。

「おどろいたね。青山がこんな家を知っているだけでも意外なのに、よっぽど親しくしているらしいじゃないか、いつごろから来ているんだ」

「もう少しすると、もっと驚くよ、まあ坐らないか」

ほどなく三人の女中が、酒と肴の膳をはこんで来た。

「飲まなくてもいいが、かたちだけは拵えておいて貰おう」

主馬はこう云って、半之助に盃を持たせ、いかにも飲み食いしているように、膳の上をとりつくろった。

「いったい、なにを始めようというんだ」

「なに、万一のときの用心さ」

女中たちが酒や皿鉢をはこび終って、しばらくすると、主馬が立って、隣り座敷へゆき、なにかしているようすだったが、すぐに、襖の間から顔を出して、手招きをした。

「静かにして呉れ」

半之助は立っていった。

そこは長い四帖ほどの納戸部屋で、窓もなにもなく、一方の壁の下に、掃出しのような、長さ三尺、高さ二尺ほどの切穴がある。ちょうど坐ったままで、覗けるくらいの、高さであるが、主馬はそのそばに坐って、――ここを見ろ。という手まねをした。

襖を閉めたこの部屋は、まっ暗であった。主馬の示すところを覗くと、その掃出しのような切穴の底が、斜めに一寸ほどあくようになっていて、そこから下の座敷が見えた。