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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
「ただ奥津城(墓)があるからだというのでしょう、恵林寺さまの、まことの御遺骸をおさめた奥津城が……そのために、ところの者が命を賭けて守るのだと」
「どうしてお笑いなさる」
「この家をごらん」
手でぐるっとさし示しながら、登世はさも興ありげに微笑した。
「江戸へ来てから三年、登世が巨額な金品を浪費した、とお云いだった、お父さまや権之丞には巨額かもしれないけれど、あのくらいの金では、この家を建てるのがせいぜいでしょう、じっさいには、その十倍も遣っているし、これからも遣うつもりです」
「――比女さま」
「どこからその金が出るか、想像がつきますか、権之丞」
権之丞は眼をみはった。
「夢物語ではありません、伏岩はあるのです、伏岩が、夢物語でないことを、証明して呉れたのです、だから登世は江戸へ出て来たんです」
「では比女さまは、あれだけ厳しく禁じられている伏岩を、ごらんになったのですか」
「登世が初めてではありません、お祖母さまもおあけになっています」
「――よもや」
「慶安の騒動(由井正雪の事件)には、お祖母さまのお手から、軍資が出ていたんです、伏岩の中に、その事実が、お祖母さまのお手で書いて、残っているのです」