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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
毛利家からは三町ほど隔たっているが、そのあいだに一軒も家がないので、双眼鏡でながめると、板べいの内部が手にとるように見えるのだ。
毛利氏は板べいの工事がはじまるときから、それがわずか二、三日で完成されるのを、楽しそうに観察していた。へいの中の地面には、海岸から運んだような、まっしろなこまかい砂が一面に敷かれていた。その砂を敷くまえに、深夜なにか作業が行なわれているようであったが、暗くて見えもしなかったし、毛利氏はそれについて、何も聞かされていなかった。
高台の上にも、その板べいの中を見おろすような建物は、まだ一軒も建っていなかった。通りがかりの人が見おろすというような道路もなかった。板べいの工事に着手するまえに、それらの点が、入念に確かめられていた。つまり、その板べいの中の地面は、毛利邸の二階からのほかは、どこからも見通せないような位置にあり、毛利氏だけが独占的にその中をながめていたのである。
板べいが完成した三日ほどのち、毛利家に不思議な電話がかかってきた。直接毛利氏を電話口に呼び出し、それが毛利氏にまちがいないことをくどく確かめたうえで、電話の向こうの男はこんなことをいった。