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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

地底の大洋

そのシリンダーが、夜なかにニューッと水面上に首を出して、そこから人が出入りするのだ。用がすめば、また池の底へ隠れてしまう。なんという用心深さであろう。それに、このシリンダーを動かすのには、モーターもいることだろうし、たいへんな費用がかかる。それほどまでにして保とうとする秘密とは、いったいどのようなものであろう。影男は、そう考えると、はち切れそうな好奇心に、いよいよ胸がおどるのであった。

地底の大洋

径一メートルの鉄の円筒が水上二尺ほどにのびたとき、その上部の平らな部分の円形鉄板のふたが、ちょうつがいでパッと上にひらき、その中から鉄ばしごのようなものがするすると伸びて、池の岸の岩の上にかかった。

その次には、円筒の中から、人間がはい上がってきた。やみに慣れた目には、その姿がじゅうぶん見わけられる。その男は、ぴったり身についた黒いシャツとズボン下のようなものを着ている。それは夜の保護色であり、また狭い円筒内の身動きに便したものであろう。影男も、こういう保護色のシャツをよく利用するので、すぐにその意味を察することができた。

その黒い男は、今わたした鉄ばしごを渡って、岸にあがると、こちらへ近づいてきた。