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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
二つの首
影男の速水は、テーブルに紙をひろげて、千代に鉛筆を渡した。彼女が考え考え、見取り図を書き終わると、速水は要所要所の質問をして、屋敷のもようをすっかり頭に入れてしまった。
「これでよし。さあ、ぼくは忙しくなるぞ。いろいろ準備がいるからね。じゃあ、ふたりとも、さようなら」
かれはニコニコして立ち上がった。千代がさきに、良子はあとからドアを出たが、そのとき、影男は、千代に知られぬように、良子の腰に手を回し、すばやい接吻をかわすことを忘れなかった。
二つの首
その夜一時、川波家の庭園に、黒い影が動いていた。月も星もないまっくらな夜だった。黒い影はへいをのりこしたらしく、夜の木立ちのあいだをくぐって、裏のほうへ回っていった。そのものは、黒の覆面で頭部全体をおおい、二つの目と口のところだけに、穴があいていた。からだには、ぴったりくっついた黒のシャツと、ズボン下を着て、黒い手袋、黒いくつ下、黒いくつをはいていた。いうまでもなく、やみ夜の保護色を装った影男である。
庭園には大小の樹木が森のように茂っていた。二カ所ほど常夜灯がついているけれど、木の葉にさまたげられて、遠くまで光は届かない。