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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
この世の果て
かどを一つ、二つ、三つ、四つ、ふたりは執念ぶかく鏡から離れなかった。そして、手の届くかぎりの鏡の面を押し試みた。隠し戸はないかと、たたき、けり、からだごとぶっつかってみた。
「アッ、ここだッ!」
影男がとんきょうなこえをたてた。鏡板の一部がぐらっとゆれて、そこにぽっかりと黒い口がひらいた。ふたりは手をつないで、その中へまろび入った。すると、鏡の隠し戸は、またもとのように、ぴたっと閉ざされてしまった。だれも追ってくるものはなかった。ふたりはやっと別世界にはいることができたのだ。そこにはもう、女どもの悲鳴も、警官の怒号も聞こえなかった。それは死の国であった。
この世の果て
明智小五郎は、中村警部やその部下とともに、地底世界の入り口に近いいわゆる事務室にもどっていた。
そこには、この世界の持ち主のちょびひげ紳士と、八人の男が、手足をしばられてうずくまり、それをふたりの警官が監視していた。
「地底王国のご主人、ふたりの犯人は、もう一つのパノラマ国へ逃げこんだ。あの鏡の壁に、隠し戸があったのだね」
明智がちょびひげの前に行って尋ねると、かれはうしろ手にしばられた上半身をおこして、恨めしそうな顔でこちらを見上げた。