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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

裏の裏

哀れな声で尋ねた。

「わからないかね。ぼくだよ。この口ひげとめがねがないものと思って、よく見てごらん。ほら、ね。ウフフフフフ」

裏の裏

「あんた変装していなさるのか。はてな、どうもよくわからんが……」

小男の須原は、まぶしそうに目をパチパチやっている。

「ハハハハハ、わからないかね、ほら、おれだよ」

弁護士はそういって、めがねをはずし、口ひげを取り去って、ヌッと顔をつき出してみせた。

「や、や、あんたは佐川春泥※(感嘆符疑問符、1-8-78) これはどうしたというのだ」

須原は、キツネに化かされでもしたような顔つきで、ぼうぜんと相手を見つめるばかりであった。

「どっかでゆっくり話をしよう。おれのほうじゃ、まだもらうものがあるんだからね」

影男の佐川春泥は、発案料の残金三百万円を、まだ取り上げようとしているのだ。

「よろしい。わしのほうでも、聞きたいことがある。ああ、あすこに神社の森がある。あの中で話そう。こういう話は、うちの中じゃあぶないからね」

すぐそばに、神社の深い森があった。ふたりは、まるで仲よしの友だちのように、肩をならべて、その森の中へはいっていった。