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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
水中巨花
黒髪が波に漂っていた。二本の美しい手が、空にひらめいた。うろこのある下腹部の上に、白い二つの乳ぶさがもり上がっていた。首の線も美しく、ぬれた黒髪のあいだからのぞいている顔は、うっとりするほど愛らしかった。その顔が、赤いくちびるから真珠のような歯を見せて、岩上のかれにニッコリと笑いかけた。それは一匹の美しい人魚であった。
水中巨花
やがて、またしても、海面が波立って、水底からスーッと白いものが浮き上がってくるのが見えた。そして、水面に顔を出したのは、これもまた美しい人魚であった。
「お客さま、ようこそおいでくださいました。これから、わたくしどもが、海の底へご案内いたしますのよ」
一匹の人魚が、小首をかしげて、あでやかに笑いながら、話しかけた。
「海の底だって? ぼくは人間だから、海の底なんかへもぐれやしないよ」
影男は、岩の岸にしゃがんで、二匹の人魚をかたみがわりにながめながら答えた。
「いいえ、それはたやすいことでございます。わたくしたちも、海にもぐるときは、こういうものを使いますの。あなたさまにも、これを当ててさしあげますわ」
人魚たちは透明な仮面のようなものをさしあげて見せ、それを自分たちの美しい顔にかぶった。