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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

さきほどの連想からであろうか、じっと見ていると、それらの曲面が、アヘンの夢に拡大された、巨大な裸女の肢体のように感じられた。天井から鍾乳洞のようにたれさがっている無数のふくらみは、あれは乳ぶさのむれであろうか。あれは巨大な腕、あれは巨大なわきの下、あれは座ぶとんを二枚かさねた女のくちびる、かれが今までよりかかっていたのは、ひとりの巨大な裸女のうつぶせの寝姿であった。表面がゴムあるいはビニールでおおわれているらしく、なめらかで弾力があり、どういう仕掛けなのか、それには体温さえもあった。それが実物の十倍の偉大なる体躯をうつぶせに横たえている。

かれはまたもとの快適な位置に足をなげ出した。かれの両側に巨大な大腿部があった。それをひじ掛けにして、うしろのうず高い桃われの臀部の小山にビロードの背中と頭とをもたせかけ、夕暮れの薄やみの中に適度の弾力と温度に包まれて、ぐったりとしていた。

突然、パッと正面の壁が明るくなった。どこからか舞台照明のライトが光を投げたのだ。正面の壁といっても、そこもゴムかビニールの巨大なる曲面におおわれていた。すべてが女体のあらゆる部分を、ばくぜんとかたどっているように見えた。