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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

よほど注意しないと」

「タクシーをいくつも乗りかえるんだよ。逆の方角へ行って、別の車に乗って、また別の方角へ行くというふうに、何度も乗りかえて、尾行をまけばいい」

「そうね。じゃ、あなた行ってくれる?」

相談がまとまったので、美与子は下へ降りていって、電話帳で明智探偵事務所を捜して、電話をかけた。すると、明智はさいわい在宅で、待っているからという返事だった。昌吉はチョコレートの箱を新聞紙に包んで、出かけていった。

二時間ほどして帰ってきた。もう夜になっていた。

「だいじょうぶ?」

美与子が心配そうに、かれの顔を見上げて尋ねた。

「尾行のことかい?」

「ええ」

「タクシーを乗りかえるたびに、じゅうぶんあたりを見まわして、ほかに車のいないことを確かめたから、絶対にその心配はないと思う。だが、タクシー代はずいぶんかかったよ」

昌吉はそこにすわって、タバコをつけた。

「あのチョコレートには、やっぱり青酸化合物がはいっていた。明智さんが簡単な反応試験をやってくれた」

「まあ、やっぱり……」

「きみが注意してくれたので、いのち拾いをしたよ」

だが、美与子には、いのち拾いをしたということよりも、今後の恐怖のほうが大きかった。