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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「さっきの電話は、たしかに速水さんの声だったのかい?」

「ええ、速水さんとそっくりだったわ。でも、そうじゃなかったのね。だれかが速水さんの声をまねてたんだわ」

ふたりは速水の筆跡を知らなかったけれど、あの運転手が持ってきた手紙も、速水の筆ぐせがまねてあったのかもしれない。なんという悪がしこい悪魔だ。

あいつはさっき「おれは殺人ブローカーだ」といった。気ちがい良斎が頼んだのにきまっている。だが、こんなへやへ閉じ込めて、どうする気なのだろう。ふたりが飢え死にするのを待つのだろうか。それとも……。

あいつは変なことをいった。ドアの外にレンガが積んであったといった。それはどういう意味なのだ。飢え死によりも、もっと恐ろしいことではないのか。

ああ、残念だ。ピストルさえあったらなあ。たまをドアの錠にぶちこめば、わけなくひらくのだが、せめてナイフでもあれば、錠を破ることができるかもしれないのだが、それさえ持っていない。

昌吉はまたいらいらと立ち上がって、へやのまわりをぐるぐる歩いた。そして、けばけばしい花模様の壁紙をたたきまわった。壁紙が何かを隠しているかもしれない。