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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「はい、まだ使いはじめてから三、四日にしかなりません。それに、もうこんなことが起こるというのは、方角がわるかったのじゃ。わしがいくらとめても、主人は耳にもかけず、とうとう建ててしまった。見るがいい。案の定、この始末じゃ」

じいさんはぶつくさと無遠慮にこぼしてみせる。

「きみはここの主人に長く使われているのかね」

「はい、十年の余になります。わしの主人は不思議な人で、いくつも名を持っておりましてね、住まいもほうぼうにあるのです」

「主人の職業は?」

「それが、わしにもとんとわかりませんのじゃ。まあ、お金持ちのぼっちゃんですからね。ずいぶんぜいたくな暮らしをして、遊びまわっている。そうかと思うと、何か書きものをするとみえて、そのためにこんな書斎を建てましたのじゃ」

「ふん、よほど変わった人だね。この建物だってそうだ。窓はあんな小さいのが一つしかなくて、へやの中はまっくらだし、入り口のドアのこの厳重な締まりはどうだ。いったい、どういうわけで、こんな用心をするのだ。この中には、何かよほどだいじなものでも置いてあるのかね」

「わしもよくは知らんが、だいじなものなんて、何もありゃしない。