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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「それじゃあ、この細引きを解いてくれ。からだの自由がきかなきゃ、名案も浮かばないよ」

「うん、解いてやる。だが、だいじょうぶだろうな。わしを裏切って、逃げ出す気じゃないだろうな」

「そんなに疑うなら、よしたらいいだろう。おれのほうから頼んだわけじゃない」

「わかった、わかった。それじゃあ、解いてやる。そのかわり、もし逃げようとすれば、わしもやけくそだ。ピストルをぶっぱなすよ。ほら、これだ。こんどはから玉じゃないぞ」

須原は例のコルトを見せておいて、細引きを解いてやった。

影男は自由になった両手をさすりながら、

「ここはどこだ」

「下高井戸の近くだよ」

運転手がふりかえって答えた。

「荻窪まで、どれほどかかる?」

「十五、六分だな」

「よし、荻窪だ。荻窪から青梅街道を少し行ったところだ。そのまえに電話をかける。公衆電話があったら止めてくれ」

車は走りだした。西の空の夕焼けがだんだん薄らいで、街灯の光が目だちはじめていた。

じきに公衆電話のボックスがあった。影男は、ポケットの中でピストルを構えた須原につき添われて車を降り、ボックスにはいった。

「うまいぐあいだ。隠れ場所が見つかったぞ。