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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

明智小五郎

明智小五郎

「おい、斎木、なにをいってるのだ。きさま、気でもちがったのかッ」

小男の須原が、満面に怒気をふくんで、どなりつけた。

「気がちがったのじゃない。きみのほうで、とんでもない思いちがいをしていたんだよ」

斎木運転手は、社長にむかって、ぞんざいな口をきいた。そして、そばの刑事たちにちょっと目くばせすると、ふたりの警官が、それぞれ、影男と須原のからだをしらべて、凶器の類を隠し持っていないことを確かめた。

「思いちがいだって?」

須原が目をむき出して、一種異様の渋面を作った。

「ぼくを斎木だと思いこんでいたのがさ」

「エッ、それじゃ、きみは斎木じゃないのか」

そのとき、斎木と呼ばれる男が、片手で自分の頭の毛をつかむと、力まかせにそれをひきむいてしまった。かつらだった。その下から、あぶらけのないもじゃもじゃ頭があらわれた。

かれは、こんどは両手で自分の顔をおおって、しばらく何かやっていたかと思うと、つるりと、その手をなでおろした。すると、その下から、斎木とよく似ているけれども、しかしどこかまったくちがった顔があらわれた。

影男はその顔を知っていた。新聞や雑誌の写真で見たことがある。