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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

女体の圧迫に窒息したのではない。そのまえに、岩のすきまからはい出した、あのうす青い煙におかされていた。ふたりの犯罪者は、谷底に降下した天女の雲におしつぶされ、その下敷きとなって、意識を失ってしまった。

影男のまっくらな心眼の中を、あらゆる過去の映像が、めまぐるしく駆けめぐった。

「ウ、ウ……もっと、もっと、ふんづけてくれい。ふんづけて、ふみ殺してくれい」

……美女の足は、ダブダブと肥え太った獅子男のからだじゅうを、まるで臼の中のもちを踏むように踏みつづける。そのたびに、男の口から、けだものの咆哮に似た恐ろしいうめき声がほとばしった……足ばかりではない。男の顔の上へ、二つの丸いだんだら染めのおしりが、はずみをつけて落ちていき、そのまま男の顔をふたしてしまった。

……女が足を抜こうとして、一方の足に力を入れると、その足がさらに深く吸いこまれた。もがけばもがくほど、ぐんぐん足がはまりこんでいく……もうももまで没していた。スカートがフワリと、水に浮いたように、どろの上に開いている。彼女は美しい女の一寸法師に見えた。スカートが浮いているので、ももから上だけの人間のように見えた……もう胸まで沈んでいた。