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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
その胸の上に、かっこうのよい長い首と、プロテアの顔がついていた。といっても、彼女は西洋人ではない。西洋人のようなからだをした日本人なのだ。年は二十五、六歳であろうか。
それだけでもじゅうぶんあやしい光景なのに、そのふたりの姿が、天井と四方の壁に張りつめた鏡に幾重にも重なり合って反射し、無数のだんだら染めの女と、無数の裸体の五十男とが、あるいは上から、あるいは横から、うしろから、あらゆる角度の映像となって、眼界いっぱいにウジャウジャとうごめいていた。むろん、男も女も、かれら自身のあらゆる角度からの映像を見ることができる。実は、この鏡のへやのあやかしのたくらみがそこにあったのである。
ピシリッと裂帛の音がした。だんだら染めの美女が、獅子使いのむちで宙を打ったのだ。
この二つのへやの音響は完全に遮断されていた。こちらの押し入れの中で少々音をたてても、相手に気づかれる心配はなかった。では、どうしてガラスの向こうのむちの音が聞こえるのか。そこにはやせ型の男と太っちょの支配人との行き届いたくふうがこらされていた。隣室の天井のすみに、それと見わけられぬマイクロフォンが取りつけられ、押し入れの中にはその受話装置ができていたのである。