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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
ほんとうのことをいうと、これはだれでも持っている殺人本能というやつじゃないでしょうか。ただ、道徳でこれを押えているのです。いや、たいていの人は、殺したいけれども、殺せば自分が社会的の制裁を受ける。つまり、法律によって罰せられる。それがこわさにがまんをするくせが、遠い先祖以来、ついてしまっているのですね。本心の底の底をいえば、だれだって殺したい相手のひとりやふたりはあるものですよ。犯罪映画やチャンバラ映画を見て楽しめるのは、そういう潜在願望のはけ口になるからですね。
そういうわけで、地位のある大金持ちのほうが、何かといえばすぐにジャックナイフやピストルを出すよた者なんかに比べて、この殺人願望がはるかに強いのです。だから、かれらは絶対安全とわかれば、金はいくらでも出します。金では計算ができないほど強い欲望なのですからね。そこで、ぼくらの会社の営業がじゅうぶんなりたつというわけですよ」
もうささやき声ではなかった。まるで小説の筋でも話しているといった、屈託のない調子であった。さすがの影男春泥も、この須原と名のる小男のしたたかさには、内心あきれ返っていた。