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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

ちょうどふたり乗りになっている。ほかには、はるかへだたった箱に、若い男女の一組みが乗っているばかりだ。観覧車はふたたび回転をはじめた。

「どうです、秘密話にはもってこいの場所でしょう。目の下に東京の市街をながめながら、はるかに品川の海を見ながら、だれに立ち聞きされる心配もなく、ゆっくり相談ができるというものです」

「きみのやり口は、いちいち気に入りました。すばらしい密談の場所ですね。では、聞かせてください。さしあたって、ぼくにどういう知恵を貸せというのですか」

「いま話します。こういうわけです」

須原と名のる小男は、タバコに火をつけた。春泥もそれをまねて、自分のタバコを出した。空はよく晴れていた。ふたりの乗った箱は、風のない小春びよりを、ゆっくりゆっくり大空へのぼっていった。

「その人の名は、いずれわかりますが、かりにX氏としておきましょう。新興成金です。まだ四十になっていません。奥さんはありますが、病身で、ほとんど寝たっきりです。子どもはありません。このX氏に愛人があったのです。妾宅に住ませていましたが、今いうように奥さんが病身ですから、この女が奥さんも同様だったのです。