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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
三十八
親か、姉か、見えない空から、手だけで圧えて、毒な酒はお飲みでない、と親身に言ってくれるように、トその片手だけ熟と見たんだ。……」
お孝が、ふと無意識の裡に、一種の暗示を与えられたように、掌を反らしながら片手の指を顋に隠した。その指には、白金の小蛇の目に、小さな黒金剛石を象嵌したのが、影の白魚のごとく絡っていたのである。
後で知れた、――衣類の紋も、同じ白色の小蛇の巻いた渦巻であった。
「時に、隣の間の正成も、ふと音の消えた時、違棚の上で、チャチャ、と囁くように啼いたものがある。声のしたのは、蛤です。動いたと見えて、ガサガサと新聞包が揺れたろうではないか。」
三十八
「(栄螺と蛤です。……)
思掛けない音に、ちょっと驚いた顔をした清葉にそう云って、土産じゃない、汐干では時節が違う。……雛に供えたのを放生会、汐入の川へ流しに来たので、雛は姉から預かったのを祭っている……先祖の位牌は、妹が一人あって、それが斉眉く、と言ったんだね。
そして御姉妹は、と清葉が訊くから、(実は。)と出ました。……実は、それに就いて、と言ったもんです。何に就いてだが、自分にも分らない。