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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

「…………」

朝に夕に――という程ではないが、時折、右門はここへ来て、一片の称名を念じていた。

といって、地下の仏と、右門とは、何の縁故もつながりもあるわけではない。土饅頭の下に眠っているのは、後月のちょうど今日、兄十兵衛の木剣のために、道場でただ一打ちに撃殺された浪人の綾部大機の亡骸だった。

――あの時。

兄の十兵衛は、部屋へもどると、あの手を洗いもせず、茶を啜っていたが、家来たちが、裏門から死骸を担い出すのを見ても、右門は身ぶるいが出て、

(だから、片目がつぶれたりするのだ)

と、兄の殺生を――残忍を平気でいる容子を――忌わしくも憎くも思った。

(いやだ、ああいやだ。どうしてわしは、武芸の家などに生れたのだろう)

簀の子巻にした死骸を、海口へ捨てにでも行くらしい家来たちを追いかけて、大機の亡骸を、彼が強いて、この空地の一隅へ埋葬させたものだった。

だが、彼のほかには、誰あって、そこへ花一枝、水一杯ささげる者はない。

右門は、自分で石を転がして来て、そこの上へ乗せた。野良犬が掘り起したりなどするからである。そして時々、石を訪れた。

「…………」

そこに念誦している右門の姿を、家来達は度々見かけた。