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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页
漬物倉
お次はこの頃、橋の下を見ないことにしていたが、その日、
「お嬢さん。ありましたぜっ」
と、ふいに河原から声をかけられて、吃驚した。
釵を持って、岩公が駈け上がって来た。
「ま」
「あったよ。あったよ」
お次は、眼が熱くなった。
彼女へそれを渡すと、岩公は、満足そうに河原へ降りて行った。飯櫃の前に坐って、もう後へ来る旅人の影へ、頭を下げていた。
漬物倉
根からの乞食でもあるまいに、
土地の者は、岩公を理解するに苦しんだが、この頃では彼の姿が見えない日は、みんなして、
「どうしたのか、病気じゃないか」
と、心配する程だった。
なぜなら、岩公がこの土地に流れて来てから、泥棒や火事がなくなった。また、石神井川へ墜ちた子や子守を、四度も救っていた。また、汚い物は人が寝ている間に、河原へ運んで焼いてくれるし、後はきれいに箒目が立っていた。
「変な男だ。だが可愛い奴だ」
と、練馬板橋の人々は、余る食べ物があると、河原のかまぼこ小屋へ、やりに行った。
この土地へ流れて来てからも、十二、三年になる。酒を飲むふうもなし、女が欲しそうな顔でもない。年もまだ三十四、五だろう。身体も満足なら顔だちも人並だった。