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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

三

「何いッてやんで。女房に死にわかれて、てめえだって、満更、淋しくねえこともあるめえが」

「だって」

「まア、来いったら」

何処かで、ベロベロに酔っぱらって来た八と権十だった。犬ころのように、首と首とを絡み合ってよろけて来る。そして、細目に開けた大戸の隙から手招きしている鼠鳴きに呼び込まれ、そのままふらふらと登楼ってしまった。

――それから、部屋へわかれて、権十もつい深く眠ってしまったらしい。

「……おやっ?」

と、何かの物音で、彼は眼を覚ましたのである。蒲団の中から首を擡げ、急に、お松のことでも思い出したのか、慌てて着物を着かえかけると、

「……叱っ」

と、彼の敵娼がいった。その敵娼の女は、襖に耳をつけて、奥でする高声へじっと、息をこらしていたが、

「ア。お陣屋の衆だ」

と呟いて、闇の中にわなないていた。

三

「不埒な奴だ」

表梯子の上に突っ立って、三名の役人は呶鳴っていた。

陣屋の同心達であろう。しかし、いつものようにぞろりと長羽織などは着ていない。馬乗り袴を括り上げ、物々しげに脚絆までつけているのだ。朝から駆け廻っているらしい疲れた顔や背中に、雪泥が刎ねあがっているのも凡事の姿ではなかった。