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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

誤算

誤算

「今夜は、帰らせてもらおう」

「もどるか」

「む……」

刑部は、とうとう、応とは云わなかった。厭とも云わないのである、黙って、佐和山から駕に乗って、夜半に垂井へもどった。

駕のうちに、揺られながらも、

(思い止まらせたい! ……何としても! ……)

それしか、考えられないのであるが、もう引き戻せる三成でない事は、彼も観念していた。

(引き戻せないとしたら?)

今は、それを思うのだ、それを思い悩むのだ。

翌日――

垂井を立つはずの、大谷勢は、依然として、宿長の邸に滞在っていた。

(御病気が急に変って――)

という噂が宿にひろがった。

刑部の室には、実際、憂暗の気が簾のうちに籠っていた。白い夜具が、きのうの昼中、きょうは宵からのべてあった。

その上に、仰臥しながら、刑部は、見えない眼を天井に向けたまま考えていた。

もう、迷っていない!

あの一碗の茶のかおりで、彼の胸は定まっていた。必ずしも人間、英雄でなければならない事はない。成算に立ち、大局に動くことばかりが、武士でもない。

(三成! くれてやるぞ! おれの生命は)

しかし――まだ佐和山へ答えを送ってやらないのは、とつこうつ、この天下の大破局を、いかによく彼に味方するか――整えを味方に持たせるか――そして戦うか? 戦うからには勝たねばならないのだ――勝てないと分っ