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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

二

石垣も見えぬ。外曲輪の塀の腰まで浸っている。あの分では、おそらく城内も池だろうと思いやられる。

「あの中には生きている人間がいる。――五千人もいる?」

ふしぎな気がした。

何で生きていられるのかとふしぎに打たれるのである。

まったく糧道を断たれてからもう三十日以上にもなるという。それだのに、沈みかけている水城の上には、生気が漲っているのだ。そこに少しの危なげな悲鳴もない。

百万一心。

わしは毛利家の家訓を思い出して、その力だと頷いた。湖中の城は、そのことばを思う時、荒海の巌のように見えた。

二

「だが……どうなさるだろう」

わしに取っても、その城が、容易におちそうもないことは、少なからず、不安だった。

なぜならば、この城が陥ちない限り、羽柴秀吉以下の軍勢は、退きも進みもならないからだ。

その間に、都にあっては、叛逆者の一夜将軍、惟任日向守が、地盤をかため、この世に、あるべからざる世の中を創り出してしまうかも知れない。

また、当然考えられることは、光秀方から密使を派して、毛利方と盟約をむすび、秀吉の遠征軍を、東西から挟撃してしまうという戦法もある。

いずれにしろ、長途の戦い出先に、突然、主君の信長公を失った三万の秀吉軍は、あの水中の小城以上、今は危ない岐路にある。