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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页
ここの世界
ここの世界
清吉の花客先は、上方でも江戸でもたいがい花柳界だった。金持らしい金持となると、近づき難いし、骨を折って出入りしても、買物となると、横柄ぶっているわりに、貧乏人より金には細かくて、彼に云わせれば、
(みみッちい、見かけ倒しなボロ客だ)
そうである。
第一、鑑賞の眼がない、下駄に蒔絵をしたり、裾模様に珊瑚を入れたりして、豪奢ぶッているのが多いのだ。唐桟の新渡も古渡りもわからないでは、一反の縞に、二十金も出すような物好きにはなれない。そういう物好きの多いのは、やはり天下の狭斜の街のうちでも、この深川に越した所はないように思われる。
そんなわけで清吉は、ずいぶん諸国の花明柳暗の里を見て来ているが、およそこの深川ほど、意気だとか、きゃんだとか、不可思議な女だましいと、あそびの世界の燈火とを、まるで名匠の芸術的事業でもあるように、客も妓も、茶屋や船頭に至るまでが、競い合って研いているなどという所は、およそ他国の遊び場所では見られないものだった。
――だから、ここではいい商いも出来たが、来始めの二、三年は、この土地の人間の気質というものが分らなくて、清吉は呆っ気に取られてばかりいた。