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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

「これで三度目だ、いくら撒いても、乾ききっているので、水を吸ってしまう」

具足をつけたままの小者が、手桶と水柄杓を持って、庭へ水を打っていた。

そして前栽にある車井戸のほうへ戻って来ると、髪も裾も埃にまみれた――しかしどこか気品のある若い女が――門前から中を覗いて、恟々と、去りがてに佇立んでいる。

「誰だ、其女は。――ここの宿長の召使か」

「いいえ、あの……」そう咎められるのを待っていたように、女はすぐ云った。

「大谷平馬様にお目にかかりたいのでございますが……」

「平馬?」

小者たちは、顔を見あわせて、

「平馬って、誰だろうか。家中に左様な名の者はないが」

すると、女は、あわてて云い直した。

「申し違えました。――平馬様というのは御幼名、刑部吉継様のことでございます」

「え、殿に」

「豊前の乳母の娘が参ったと仰っしゃって下されば、きっと、殿様も覚えておいで遊ばすことと存じます。お取次ぎくださいませ」

「さ……どうしたものだろうか。とにかく、ちょっと待て、御組頭まで伺って来るから」

小者が、奥へ駈けこむと、やがてその者と連れ立って、黒革胴を着込んだ背の小づくりな――そして兎唇の見るからに風采のあがらない武士が出て来た。