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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

山と町

一

とにかく、一時、この神社の裏山へ登って、谷間へでも何処へでも隠れておれ。そのうちに、余燼が冷めるのを待って、遠国へ奔るがよい」

血をわけた人の眸には真実の涙が光っていた。――けれど磋磯之介の胸にはここを去るとなると、急に、お那珂の姿が思い出された。

(後生ですから、一度そっと、会わせてください)

と、いつか嫂にも訴えたが、そのまま会えずにいたのだった。けれど、兄の今のことばと、真情に潤んでいる眸を見ては、そんなことは勿論、にもいえなかった。

山と町

一

「山の神主さんはこのごろ、少し気が狂れているそうだの」

「どうして」

「時々、裏山へひょこひょこ登って行っちゃあ、大谷原や蛇ヶ池の辺で、たんだ独りぼっちで、大え声出して喚いているってえこったもの」

「何を喚いているのか」

「詩吟ていうのか、唐人の難しい詩を歌ったり、そうかと思うと、子守歌を謡って歩いていたりすることがあるというぜ。――そんなところを、山の木挽が、二、三度見かけたという話だ」

「かあいそうにな」

「いつぞや、代官所の衆が、捕手を連れて、ひどい家探しをやったそうでな。何でもその時、役人を相手に、えらい争いをやったというから、そんなことで、逆上したんじゃあるめえか」