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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

――と。

まるで一枚の半巾でも飛んで来るように、白い前掛をした女が彼方から走って来た。ちょうど海から霧が上陸って来て、街燈の灯まで二重になって見えるように往来が煙っていた。

「ここへ来るのかな?」

旗岡巡査は、その女の影を認めるとすぐ、異人屋敷の雑用婦人と見当をつけていた。

「――あッ、巡査さんですね」

近づくなり、女は、打つかるように旗岡巡査の側へ来て、その腕へしがみついた。そして、何か訴えかけたが、肩ばかりが波を打って、

「た、たい変なんですっ。……す、すぐ来て下さい。すぐ!」

半分泣いている声だった。

「どうかしたんかね?」

「だ、だん那様が、殺されました。わたくしの主人に、短銃で……短銃で……」

「人殺しがあったんか」

「――ですから、大急ぎで来て下さい。早く来ないと、犯人も、逃げるか、死ぬかしてしまいますから」

「困ったなあ。……わしはここを動けない事になっとるんだが」

「何ですって。人殺しがあったと訴えているのに、巡査さんが、来られないんですか」

「わたしは他県から来とるんだしなあ。それに、任務があるし」

「そんな事いったって、困りますよっ。来て下さいっ、来て下さいっ」