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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页
四
心なしか、暮れかけている泥湖の水の光も、孤城の影も、何となく寂として、雨の霽れ間を身に迫る湿っぽい風が蕭々と吹き渡っていた。
持宝院というお寺に着いた。
御陣所のすぐ下だ。
「坐れっ」
という声を浴びて、わしは本堂の階段の真ん前の大地へ坐っていた。
濡れた陣幕が、本堂の蔀を繞っていた。夕風の来るたび、大きな桐の紋がゆらゆらと動いて、そこらの桜若葉から、青光りする毛虫だの雫が、廻廊へも、わしの背へも、降りかかった。
程なく――。
手燭の光が映した。その光も、風にまたたいて、ひどく揺れうごく。七名ほどのお旗本が、廻廊の杉戸からずかずか来て、わしの頭からじっと見た。黙って、両側に控える。その中央に、黒塗の床几が置かれた。
四
……ああ。やっぱりこの人だ!
わしは、正面の床几に腰かけた四十四、五歳かと思われる大将の顔を仰いで、途端に、胸のうちで叫んだ。
猿殿は、細い目から、キラとわしを見て、
「丹波表の者か」
と、いった。
「はっ」
喉にからんで、声もよく出なかった。
猿殿は、つづいて、
「何用?」
と、訊ねた。
わしが、お人払いをというと、無造作に顎を左右へうごかした。