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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

――しかしその朝は、城内隈なく、掃除をさせ、自身は静かに天主に上り、衣服を正し、髪をなで、それが終ると、気長に毛抜で髯を抜いていたそうである。

時刻が来ると、兄の月清入道やら軍師の末近左衛門などに送られ、水に浸った城門の際から、小舟へ乗り移る――。その際、家臣ふたりまで、

(御先途を)

と、刺し交えて殉死したとある。

舟は、静かに棹さして、湖心へすすんで来た。――と、赤い小旗を舳に立てた一艘が、秀吉殿の御陣からも漕ぎ出した。

それには、堀尾茂助吉晴どのが、検視として、乗って行かれた。

(秀吉公よりの御贈り物でござる)

と、検視の舟からは、一荷の酒が、移された。

宗治は、慇懃に、

(御芳志。心ゆくまで、戴くでござろう)

と、侍臣とともに、悠々、杯を交わしていたが、やがて、舟中に立ち上がって、

(よい心地になり申してござる。さらば、この世の名残に、一さし舞うて――)

と、自身、朗々と謡いながら、誓願寺の曲を、舞い終った。

石井山の御本陣を始め、敵も味方も、一瞬、小波も立たぬほどひそまり返って、泥水の大湖の中に、閃―閃―と舞いうごく波の扇を見まもっていたのである。