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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页
三
……もう暫しと、母君を皆してお宥めしておいてくれい」
金奉行が退がるついでに、附けてやった蔵奉行がもうそこへ来て控えていた。
腰かけたまま、籠手脛当の紐など、左右から小姓に結ばせながら、
「蔵米は何程あるか」
「八万五千石の記帳と相成っておりまする」
「うむ、八万……」
猿殿には、ちょっと胸算には積れないらしく、無造作にこういった。
「今日から大晦日までの分とし――日ごろ、扶持取る者どもに、扶持高、五倍増しにして頒け与えい」
「……と。御陣先の、兵糧はいかがなされますか」
「兵糧は無用。こんどの戦場は、食い物の多い所とほぼ知れている。――それよりは、後に残る弓、鉄砲の足軽小者の妻子どもに、煎じ茶の一ぱいもゆるりと飲ませてくれたが増し……。心得たか」
「はっ」
それで、風呂の中でした考え事は、すべて、附け終ったらしくある。猿殿は、さもさも、爽々したように、奥へ急いで通られた。
三
道をちがえて、続々と引揚げて来た各部隊は、大手、中門のあたり、二の曲輪から、御本丸の広場にまで、満ち満ちていた。
久しぶりに脂の浮いている汁椀と、にぎり飯とを両手に持って、兵たちは、明日の空あいを眺めていた。