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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页
三
そちさえ嫌でなければ、百年の誓いをして立ちたい。また、厭なものならば――ぜひもないが」
障子はいっぱい開いているし、十兵衛の声は大きいのである。紅梅だの連翹だの、庭木はそこを遮ぎっているが、又十郎の部屋からは、手に取るような一間だった。
「……浮世絵だなあ、まるで。……兄貴にも、あんな欣しいとこがあったのか」
又十郎は、にやにやしていた。
――だが。
そう二つの部屋をつないでいる横の長い棟の――先刻から寂と閉めきっている窓障子の一室には、四男の右門が咳声もしていなかった。
三
「…………」
右門は指の細い手を左右の顳に当てて、朱机に俯向いていた。朱い漆の上に、涙が落ちていた。
窓の外から聞えて来る兄の声を、聞くまいとして先刻から書を繙いたり、香盆を拭いて香炉に火を点じてみたりしていたが、十兵衛の声が耳に聞えている時よりも、聞えていない間の方が、堪らない不安と焦躁に駆られてしまう。
きょうばかりではない。
長兄がお由利に対して、想いを示すことは、余りに露骨だった。どうかすると、この自分がいる前でも、びっくりするような事を突然云う。
(お由利は自分の気もちを知っていよう)