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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

きっと、話しに来るだろうと待っていたお由利は、顔も見せないのである。茶を吩咐けると、他の小間使や小僧ばかり顔を出した。

「どうしたのか?」

彼はとうとう部屋を出た。それとなく邸の間ごとを覗いたが、彼女はどこに働いているのか分らなかった。召使に糺せばすぐ知れるものを、そんな勇気は出せないのである。

――何気なく、父の居間を覗いた。そこへ行くには、錠口があって、父の留守中は、用人でも入れないのに、誰か、微かな物音と、人の気配が中でする。

「……あっ?」

仄暗い杉戸の縁から、彼は眼を瞠ると、部屋の中にいた人影も、ぎょっとしたように振向いた。――白い顔、すずやかで大きな眸。由利なのである。

「由利じゃないか。……こんな所に、何をして?」

右門がいううちにお由利の顔は、一瞬の驚きから、常の微笑みに返っていた。

「……お掃除をしておりましたの」

「掃除を」

「はい。殿様から、今朝お立ちがけに、お机のまわりを、きれいにしておけと、吩咐けられておりましたので……お硯を洗ったり、お机の塵を払ったりして」

「ああそうか。誰も手をつけさせない御書斎だが、そなただけは、格別、お父上も信用していらっしゃるものとみえる。