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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页

青空文庫

三

喜内の嗚咽が洩れた。老人は涙の顔を、懐紙につつんで退がって来た。

「案じ召さるな。どうなろうと、御父子の血は濃い。深い思し召のあることじゃ」

侍部屋へ来て、喜内老人はいった。そして何を問われても、後は黙りこんでいた。

八刻の木が鳴った。

邸内の灯りが減ってゆく――待ちかねていたように、右門は戸外へ忍び出した。兄達が帰らない原因は薄々耳にした。けれど、このままとは思われなかった。またすぐ帰るものと信じていた。土饅頭のまわりには、若草が萌えて、もう古い塚みたいになっていた。

「どうしたろう?」

右門は、石のまわりを、繞り歩いた。そしてふと、地下の白骨を思い泛かべた。綾部大機の死骸が、ぞっと記憶の底から呼び出された。

「ああもうじきに……半歳になる」

三

「はて?」

但馬守は、持薬の咳の粉ぐすりを口に含んだが、そのまま、嚥み下さずに、じっと顔を上げたなり、舌先に溶ける薬の味をさぐっていた。

「……どう遊ばしましたか」

側に、手をつかえていた老女が、不審顔して、彼の容子を見上げながら訊ねた。

但馬守は、片手に、水の茶碗を持ったまま、突然立って、

「外を開けい」

と、廊下へ立った。