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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

まだら蛇

石油ランプは、窓から忍び込む暁の光に、色うすれて、虫の鳴く様な音を立てながら明滅していた。部屋中に朝のたそがれが立ちこめて、陰気な情景を、一層陰気に描き出していた。

まだら蛇

それより少し前、水上署の大型ランチが、賊の汽船に横着けになった。

艇上の波越警部は、船内の明智を、しきりと呼び立てたけれど、何の答えもなく、第一賊船の甲板上には、いつまで待っても、人影さえ現われぬので、業をにやして、兎も角ランチから汽船へと、乗移って見ることにした。

さて、波越警部達が、どうして朝まだき、賊の汽船を襲うに至ったか。そして、際どいところで、賊が海中に身を投じて逃げ去ろうとするのを、食いとめることが出来たのか、偶然にしては少し話がうますぎるではないか。

イヤ、決して偶然ではなかった。これも亦明智小五郎の機智が奏効したのだ。

前夜の三時頃、一人の巡査が月島の海岸近くを巡廻中、海辺の石垣の方から、異様なうめき声、イヤ寧ろ叫び声の響いて来るのを耳にした。

不審に思って、駈けつけて見ると、海老の様に、両手と両足を背中で結びつけられた人物が、石垣の上を転がりながら、悲鳴を上げていた。