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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

と、そういう人々の眼に、白い小さい握り拳ほどのものが、暗い檻の奥の方から、口もとへ蠢めいて来るのが見えた。

「出た――ッ」

「いたぞ――ッ」

「何んだ何んだ!」

白い物は檻の口で足を止め、しばらく動こうとはしなかった。

でもとうとう飛び下りた。

叫喚!

人々はサ――ッと逃げた。

小さい動物は白鼡であった。

あまりのことに武士たちも範覚も、群集たちも度胆をぬかれ、茫然として声も出なかった。

と見てとった頤髯のある男は、鉞を肩にして唄うように叫んだ。

「大山鳴動して鼡一匹! これがよき例にござります! そうしてこれこそ我ら茨組の、最後の芸当にござります」

当意即妙のこの言葉には、武士たちも群集も範覚も、笑うよりほか仕方なかった。

「やられた」

「いやはや」

「ひどい奴らだ!」

「はなから終いまで嬲りおった」

「こうまで嬲られれば腹も立たない」

「通れ通れ、さっさと通れ!」

武士たちは笑いながらそう云った。

「お許しが出た、さあ行こうぞ」

「方々しからばご免候らえ」

「ソレ」

とばかりに茨組たちは、牛車の牛に鞭をくれ、一斉に走らせて自分たちも走り、砂煙りを立てて景気よく、悠々と大木戸をおし通り、伏見の方へ消えてしまった。