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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
そうして京の地へ帰って来たのは、数日前のことであった。
実家へ帰ろうとはしなかった。
家のことも父のことも、彼女の心にないからであった。
ではどうしてこのようなところへ――比叡山の裏山というようなところへ、彼女はやって来たのであろう?
流浪中に彼女にも仲間が出来た。
その仲間がここへやって来たので、それで彼女も来たまでであった。
ではどうして彼女の仲間は、こんなところへ来たのであろう?
神社仏閣の所在地へは、世の廃人や社会の落伍者が、おのずと集まるからであった。
ことにこの頃の比叡山の裏山には、そういう廃人や落伍者ばかりでなく、盗賊、追い剥ぎ、悪祈祷者、そういう者まで集まっていた。殺生禁断の場所だけに、鳥獣なども無数にいた。それを狩るために猟師などまでが、弓矢をたずさえてはいって来、猪小屋をかけて住んでさえいた。娼婦の群れさえいたほどである。
早瀬は叢の向こう側へ行った。
と、自分の歩いて行く先を、何者か歩いて行く者があって、草を分ける音が幽かに聞こえた。
彼女は思わずゾッとした。
(裏切り者ではあるまいか? ……盲目の殺人狂ではあるまいか?)
彼女は佇んで耳を澄ました。