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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
こう考えてこの館で、血書きの写経をやり出したのであった。
桂子は筆を運ばせて行き、それを見つめながら白猩々は、なお立ち去らずにかしこまっていた。
桂子は苦しそうに溜息をした。
小次郎の凛々しい俤と、それに関する妄想とが、払っても払っても脳裡に去来し、彼女の煩悩をそそるからであった。
(いっそ小次郎をここへ呼ぼうか)
ふと桂子はこう思った。
血書き写経のさまたげになると、そう思ったのでこの館へ、小次郎の来ることをかたくとどめ、二条の館へ止どめて置いた。
で、この館には浮藻のほかに、幽霊女だの鶏娘だのの、女の家来数人と、右衛門だの袈裟太郎だのの、男の家来五六人を、めしつれて来たばかりであった。
小次郎の姿を見なくなってから、二十一日経っていた。
そのためかえって彼女の心に、妄想が起こるように思われた。
(そうだ、小次郎を呼ぶことにしよう)
小次郎が側にいて何くれとなく話し、起居動作してくれたら、かえって心が慰められ、写経も進むように思われた。
桂子は側の鈴を振った。
鶏娘が襖をあけた。
「袈裟太郎を呼んでおくれ」
鶏娘が顔を引っこませ、代わって風見の袈裟太郎が来た。