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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

云いすてて頼春は足音を忍ばせ、話し声のする方へ歩いて行った。

小次郎も引っ返した。

(無礼講っていうやつ、面白いものだなあ)

好色で放蕩で剽軽者の彼には、褊一枚の白拍子を抱いて、乱痴気さわぎをやっているところの、この無礼講というものが、どうにも面白くてならないようであった。

(もう一度隙見をしてやろうか)

こんなことを思いながら小次郎は、館の方へ歩いて行った。

(それにしても桂子様のお館へ、わしがこっそり通うということを、どうして兄上には知ったのであろう?)

面栄ゆいような気持ちがした。

あの日以来彼は桂子の館へ、しげしげ通って行くのであった。

得体の知れない大勢の男女が、変な稽古をやっている。これが彼には面白かった。

桂子という女に対しては、彼は一面恐かったが、一面なつかしくてならなかった。

それに桂子の妹だという、浮藻という娘に対しては、可愛らしさを覚えていた。

それやこれやで通って行くのであった。

(兄上を宿所へ送りかえしてから、今夜も二条へ行きたいものだ)

こんなことを考えて歩いて行った。

(おや)

と不意に足をとめた。

行く手の萩の叢の根もとの辺りに、一人の男が身を伏せて、そこから透けて見える館の座敷の、無礼講の様子を見ているからであった。