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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

……数年前ならよかったろうよ。が、今では荷厄介で、ムダさ。……ちょうど右衛門の忠義立てのように!)

また小次郎は足を早めて走った。

行く手の木の間から燈の光が見えた。

(ははあ小屋だな、猪小屋だな)

猪小屋を取り巻いて猿猴の声が、嵐のように響いていた。

頼春はノッと腰をあげた。

左右の手を床へついた。

左の手の下に蝮がいた。

キリキリ!

腕へ捲きついた。

「わッ!」

この時、純白の物が、谷に向かって開いている窓へ、卯の花が叢をなして咲いたように……。

(蝮に噛まれた!)

と、頼春は感じた。

一揮!

蝮を振り落とし、頼春は隣り部屋へ狂い出た。

猩々卯ノ丸が窓から飛び下り、浮藻を両腕に抱き上げた。

小屋の前まで小次郎は来ていた。

と、小屋から手負い猪のように、一人の男が飛び出して来た。

「あぶない!」

ぶつかられるのを防ぐつもりで、

一揮!

小次郎は太刀を振った。

「わッ」

「しまった!」

独楽のように、左の腕を肘のあたりから、切り落とされた頼春は、キリキリキリキリぶん廻った。

が、すぐその姿は見えなくなった。

猪小屋の燈を目あてにして、馳け上がって来た桂子の横手を、丸太のように転がって行く、人間らしい物の姿が見えた。