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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

……小次郎にはそれがおわかりだろうねえ。……三人一緒に住もうものなら、小次郎も浮藻もわたしまでも、苦しまなければならないのだよ。……ねえ小次郎やそうではないか」

桂子の声はしばらく途絶えた。

鬼火の姥たちの一団は、もう向こうへ行き過ぎたと見えて、歌う声もはやす声も聞こえなくなった。

小次郎は大銀杏の影から外れた、月光の中に浸りながら、浮藻を横にして坐っていたが、心はいまだに夢のようであった。

(浮藻だと思ってくちづけしたら、それが鬼火の姥であり、鬼火の姥だと思った人が、桂子さまであろうとは※(感嘆符疑問符、1-8-78))

肉親相愛に似た感情が、今彼の心を苦しめていた。

(桂子様は恋人ではない。お母様だ、お姉様だ、お師匠様だ、恋人ではない! ……そのお方と愛し合ったとは!)

顔を上げることさえ出来なかった。

「小次郎や」

と桂子は云った。

「わたしは自分を信じ過ぎていたよ。……わたしの心は昔に返った、今度小次郎に逢おうとも、邪の心など起こしはしまいと! ……でもそれは駄目だったよ。……お前が美し過ぎるからだよ。……浮藻や」

と桂子はいたわるように云った。