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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
恩典に、浴しましたにございます」
「なるほど」
と云ったのは村上坊こと、村上彦四郎義光であった。
「それに十津川の郷民とくると、武勇絶倫ということでござるな」
「さようで」
と兵衛は深く頷き、
「保元の乱におきましては、指矢三町、遠矢八町――などと呼ばれる騎射の名手が、南都興福寺の信実だの玄実だのの、荒法師ばらに召し具されまして、新院方にお味方し、比類ない武勇をあらわしましたそうで」
「いったいに郷民の性質が勤厚篤実に見うけられまするな」
こう云ったのは片岡坊こと、片岡八郎その人であった。
「さようで」
と兵衛は自分の郷民を、そんなように真面目に褒められたので、嬉しそうにまた頷き、
「平生は芋野老などを掘りまして、乏しく生活しておりますにも似ず、目前の利害などには迷わされず、義を先にし節を尚び、浮薄のところとてはございません。自慢するようではございまするが、頼み甲斐ある人間どもの巣、それが十津川でございます」
ひとしきり風が出たと見えて、庭の松の木から落ちるらしい凍てた、雪の音がした。
と、狐の啼く声が館を巡って数声きこえ、山国の冬の夜の荒涼さをしばらく聞く人の心に与えた。