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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「神の界に属しまつる御一方に――大塔宮護良親王様に、許すとの御言葉うけたまわり、裏切り者の※悔、心を浄めて真人間になろうぞよ! ……わしの裏切りから無念に死んだ、土岐十郎頼兼殿も、多治見ノ四郎二郎国長殿も、今夜限り草葉の蔭にて、わしを責むることなくなるであろうぞ! ……この年月いかに二人の、怨みと怒りと嘲りと、憐愍とに充ちた死前の顔が、わしの心眼に見えたことか! ……が、それとても今夜限りじゃ! 早瀬!」

と頼春は早瀬の方へ、痩せた、青褪めた、垢じみた、髭ぼうぼうとした不具の顔を、月光に照らして振り向けた。

笑ったと見えて唇がほころびたが、悪食が祟ったためであろう、上下の前歯がことごとく脱けて、口はうつろな洞のようであった。

「嬉しいぞ早瀬、嬉しいぞ!」

「あなた!」

と早瀬は顔の垂れ布を片手でかかげて、頼春の顔を、涙いっぱいの眼で見詰めたが、

「その時こそは妾の罪をも――あなた様を裏切りいたしました、わたしの罪をもあなた様には……」

「おお許すとも、許さで置こうか!」

「では明日からは昔ながらの……」

「また夫婦じゃ! 愛し合う夫婦じゃ!」

「それでこそ早瀬は救われまする! ……救いの神様へ、宮様御許へ!」