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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
悪霊殿
野兎が木の間を駈けて通り、山蟻が地面を列をなして通り、陽が酒のような黄金の光を、濃やかに四方にみなぎらしていた。
やがてこの年の九月となった。
鎌倉の幕府も、京都の朝廷も、動揺せざるを得ない大事件が起こった。
大塔宮が吉野に城を築き、楠木正成が千早に城を築き、前後して兵を挙げたことである。
悪霊殿
この頃桂子は浮藻や小次郎と、京都二条の自分の館に、陰惨として住んでいた。
一緒にいるとは名目だけで、小次郎とも浮藻ともかけ離れ、別棟の高楼に一人で住んでいるのであった。
写経をしているという噂でもあれば、秘法を修しているという噂でもあった。
でも鶏娘や幽霊女たちは、ひそひそとこんなように囁き合った。
「小次郎様をご覧になるのが、お姫様には苦痛になられ、それであのようにかけ離れて、一人で住んでおいでになるのね」
「浮藻様を見るのが辛いので、それで離れてお住居になるのさ」
築地と木立ちとに囲まれた、古い蒼然としたこの館は、外形こそ廃屋めいていて、寂しくもあれば恐ろしくもあったが、内へはいると往昔は、陽気でもあれば華やかでもあった。
多くの男女の部下たちが、例の道場でいつも楽しそうに泥棒の稽古だの、物真似の練習だのを、賑やかにやっていたからである。