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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
ドギュウと日本では称しているような昔懐しいもの。それにオォルの握りも太く、ブレエドの幅も広く、艇は遅いけれど、バランスがよく、舟足も軽い。まっさおい水の上に、艇をポオンと置いてから、約一月ぶりに、シャッシャッと漕ぎだすと、一本々々のオォルに水が青い油のように、ネットリ搦みついて、スプラッシュなどしようと思っても、出来ないあんばい。三十本も漕ぐと、艇はたちまちコオスの端まで行ってしまう。河幅わずか十米あまり。漕いでいるオォルの先に、ぷうんと熱帯の花々が匂うばかりです。さすがに先輩たちも感にたえたか、ぼくはいつもの叱言一つさえ、聴きませんでした。五番の松山さんが、突然「あーア」とおおきい溜息をつき、「おーイ、みんな、漕ぐのは止めろッ、寝ろッ寝ろッ」と叫びさま、オォルをぽおんと投げだし、ぼくの太股のうえに、もじゃもじゃの頭を載せました。彼の鬼をも欺くばかりの貌が、ニコニコ笑うのをみると、ぼくは股の上の彼の感触から、へんに肉感的なくすぐッたさを覚え、みんなに倣って、やはり三番の沢村さんの膝に、頭をのせ仰向けになりました。と、そんな吝な肉感なんか、忽ちすッとんでしまうほど空はとろけそうに碧く、ギラギラ燃えていた。